前回のコラムでは、スポーツの解釈を勉強との比較を用いて解説し、トレーニングを効果的にする為に意識するべき私の考えについてお話ししました。

要約すると、スポーツも勉強も基礎を『深く』身につける必要があり、その『深さ』を追求する為には『選手個人の考える力』が必要であるということでした。

今回は『深さ』を求めるに必要な、私が考えるもう一つの要素について紹介したいと思います。

それは『効率』を求めないことです。
現代社会において、スポーツの世界のみならずサラリーマンにおいても、無駄を省き効率的に物事を進めることが良しとされています。しかし、効率を求めるあまり失われることもあるように感じます。

以前サラリーマン時代に、要領が悪くなかなか成果を出せずにいた私に対し、『効率だけで仕事をこなす人間はいずれ頭打ちが来る。遠回りしながらでも着実に経験を重ねろ』との言葉をかけてもらいました。

仕事をそつなくこなすことは、時間に余裕が生まれ感覚的に有意義です。周囲からの評価も高くなります。しかし、そつなくこなすだけでは結局その場限りの成果になる恐れがあります。表面上は綺麗に取り繕っていても、そこにかける情熱が薄いと自分の中に蓄積される経験も薄くなるように感じます。

遠回りしたとしても、その中で徹底して取り組んだ経験は、その後の自身の大きな力になります。一見無駄となったプロセスですら、次の現場で応用できることもあり、更に言うと無駄であると理解しただけでも大きな経験になります。
皮肉にも、遠回りした方が結果的にこれからの仕事をより効率的に進められる力が身に付きます。

加えて言うなら、遠回りしたなかにも新たな知識を得られる可能性があります。人間関係も同様で、特定の人のみと接するのでなく、自分と違う境遇や違う経験をしている人と接することで、新しい発見が生まれると感じます。
前回のコラムで述べたこと同様、どんな経験も自分次第で成長を掴めるチャンスになると申し上げたいです。

また、効率にばかり目を向けると、『力の出し惜しみ』に繋がる危険性も感じます。
私達の様に球技スポーツの場合、球拾いの時間が必ず生まれます。ビーチバレーボールの場合、海で練習すると果てしなくボールが転がっていき球拾いだけに多くの時間を割くことになります。

その球拾いの時間を短縮する為に、強くボールをアタックしたりサーブすることを避けてしまうと、自分が持つ能力を発揮できないまま練習が終わってしまいます。やみくもに全てを強くアタックするべきとは言いませんが、効率の為だけに自分の力をコントロールしてしまうと、どんどん能力が小さくまとまってしまいます。

能力を上げる為には全力で取り組むことが必要ですし、球拾いをしながらでも頭の中を整理することで、練習の効果を更に上げることができます。

物事を最短ルートで進めることの美しさは勿論分かりますが、時には遠回りしてでも様々な経験を積み、そこで生まれる知識や経験を得ることに面白みがあると私は考えます。

4月に入り、日本国内の大会に先んじて、海外では国際大会がスタートし、私も海外での転戦をスタートしました。これまで、オーストラリアとタイの2か国で大会に出場して参りました。
これはプロツアーと呼ばれる大会で、全世界から選手が集まります。レベル感によって3つにカテゴリが分けられ、今回は下層の大会に出場しました。結果はそれぞれ17位と13位で決して喜べる結果ではありませんが、連戦の中で着実に課題を克服して、ステップアップできたと振り返っております。

私自身久しぶりの海外遠征でしたので、そこで感じたことにも触れたいと思います。

一つはアスリートとして体調管理の重要性です。
今回行った2カ国の気温は、オーストラリアで30°、タイは35°程度ありました。全世界から選手が集まる大会ですので、まだ雪降るヨーロッパの国から来た選手は、まずその気温に慣れることに苦戦していました。中には試合中に体調不良を訴える選手もいました。

私も大量の発汗により具合が悪くなる場面もありました。主戦場を海外とする選手にとって、いかなる国でも同じパフォーマンスを発揮するには、まず現地の環境を理解して体調管理を徹底しなければなりません。子どもの頃から言われている基本を再度強く認識できました。


二つ目に、国によるコロナウイルスへの対策の違いです。
最初に行ったオーストラリアでは、ほぼコロナウイルスとの戦いは終了したかのようでした。日本を出国する際にPCR検査の陰性証明書は必要でしたが、到着してからコロナ関係の手続きはほとんどありません。街を歩く人々はほぼマスクをせず、至近距離で会話をする人が多かったです。夜になると昼間は静かだった飲食店が、大音量の音楽とお酒と笑い声が飛び交う空間に変化していました。

一方2カ国目のタイでは、入国者への対応は厳しく、入国後直ぐにPCR検査を受け、結果が出るまで指定のホテルで隔離することになりました。そこから試合会場に移動してからも、ほとんどの人がマスクをつけ、念入りに消毒を行なっていました。

日本はまだコロナウイルスを切り離すことはできていない状況です。
そんな中、ビーチバレーボールの国内大会も5月から開催され、今年は有観客で行われる予定です。また皆で気兼ねなく盛り上がれる日々が待ち遠しいです。


倉坂 正人 MASATO KURASAKA

石川県金沢市出身
石川県立工業高→早稲田大→三菱オートリース→フリー

ランキング6位(全565人中)
2022年前期 強化選手
東京オリンピック代表決定戦 準優勝
JBVシリーズ2020千葉市長杯 優勝

2022年 クオリティソフトがスポンサード

倉坂選手プロフィール
https://beach.jva.or.jp/player_men/masato_kurasaka_2022/

倉坂選手インスタグラム
https://www.instagram.com/masato_kurasaka/