本格的な夏に入る前に訪れる雨季、この時期、日本では梅が熟すため、梅雨と呼ばれています。梅雨は二十四節気では、「芒種」から「夏至」に当たります 。

この時期、日本を取り巻く四つの気団がせめぎ合い、停滞することで湿度が高くなり雨をもたらします。また、温暖性の気団と寒涼性の気団がせめぎ合うことで、気温差も激しくなります。中医学では、人間も自然界の一部と考えています。湿度の高い時期は、人間の体も湿気を溜め込みやすく、湿気による体調不良を引き起こしやすくなるので注意が必要です 。

今回は、湿度の高い季節を上手に乗り切る玄米粥のレシピをご紹介したいと思います 。

梅雨の養生 脾に負担をかけないように

私達が口にした栄養や水分は五臓の「脾」によって消化・吸収され全身を巡ります。ここで脾の機能が落ち、水をさばくことができなくなると水が体に良くない影響を及ぼす「湿邪」へと変化します 。
湿度が高くなってくると「湿」を処理する「脾」の負担が増えます。また、冷たい飲み物や油っこいものの摂り過ぎ、食べ過ぎは脾に負担をかけ、脾の機能を落としてしまい「湿」を溜め込む原因になりますので気をつけましょう 。

湿が原因 梅雨時期に現れる多彩な症状

湿度の高い時期には、めまい、重だるい、倦怠感、関節痛、湿疹、食欲不振、下痢、軟便などの症状が見られるようになります。一見、多彩なこれらの症状は、中医学では湿が停滞したことにより引き起こされると考えます。どこに余分な湿が停滞するかで現れる症状が異なるのです。

お粥の効能

私は、風邪など病気以外の時でも、食欲が落ちたり、体が重い時には、朝食にお粥を食べて胃腸をリセットします。消化吸収の良いお粥を食べることで、脾に負担をかけずに、その日に必要なエネルギーをチャージすることができるのです。またお粥は、赤ん坊からお年寄りまで幅広い年齢層に召し上がって頂くことができます。

年齢や環境によって炊き方を変えたり、相手を思いやって作るという意味では、まさに「薬膳中の薬膳」とも言えますね。
今回は「湿」を身体から追い出す食材を使って、玄米粥のレシピをご紹介したいと思います。

●トウモロコシ

この時期になると、トウモロコシが出回り、これを見ると6月に入ったという実感が沸いてきます。旬のトウモロコシを手に入れたら、「ひげ」は捨てずに洗濯ネットなどに入れてベランダで干してみてください 。
トウモロコシのひげは漢方では「玉米鬚(ぎょくべいじゅ)」と呼ばれ、冬瓜の皮などと一緒に煮込んで浮腫をとるのに使われます。お湯を注いでお茶としても飲んで頂けます。今回はこちらでお粥の出汁をとっていきます 。

また、トウモロコシは、炭水化物や蛋白質、脂質を豊富に含んでいて栄養価の高い野菜です。その自然な甘みが気(生命エネルギー)を養い、脾の機能を高めてくれますので、梅雨時期には欠かせない食材の一つです

●山椒の実

この時期出回る食材で注目したいのが山椒の実です。山椒はイヌザンショウの成熟果実の果皮のことで英名では「Japanese Pepper」(日本の香辛料)と言います 。
昔は回虫などの腸内寄生虫が多く、山椒は回虫による腹痛・嘔吐などに使われていました。漢方薬でも「大建中湯(だいけんちゅうとう)」という処方に含まれていて、お腹の冷えによる腹痛や下痢、吐気などに使われています。
湿などの「陰」の邪気を動かすには山椒の辛味などの「陽」のエネルギーが必要になります。体に溜まった余分な湿気を乾かしてくれるので、梅雨時期に、利水の食材と合わせて使って頂くとよいでしょう。また余った山椒の実は、小分けにして冷凍し必要に応じて使って頂くといいです。

食材の薬膳的効能

トウモロコシと山椒の玄米粥

材料(2名分)

トウモロコシ … 1本(実をほぐす)
山椒     … 小さじ2
玄米     … 1/2カップ
水      … 3と1/2カップ
塩麹     … 小さじ1
トウモロコシの髭 … 2~3g

山椒の実は中身は使わず果皮だけ使います。簡単に爪で割って中身と果皮を分けることができます。

作り方
手順① トウモロコシの芯と実の間に包丁を入れほぐす。
手順② 浸水した玄米、水、塩麹、トウモロコシ、トウモロコシの鬚(出汁パックに入れる)を鍋に入れ強火にかける。沸騰したら弱火にして40分炊く。
手順③ 山椒の実を散らす。

炊き加減はお好みです。今回は玄米に対して7倍量の水で炊きましたが、水分量が少なめの方がお好きな方は少なめで、多い方がお好きな方は多めで炊いてみてください。
また、手術後などで消化吸収が悪い方は、お粥の上澄み液だけ飲んでいただいても良いでしょう。

今回はトウモロコシと山椒を使いましたが、旬の食材を使うだけで「季節の薬膳粥」を楽しんでいただけます。
ぜひ作ってみてください。

田村 英子 EIKO TAMURA

2010年 東京薬科大学薬学部卒業
・薬剤師
・国際中医薬膳師(北京中医薬大学薬膳課卒業)
・「カラダを変える12か月の薬膳」主宰
大学卒業後3年間は調剤薬局に勤務した後、東洋医学の世界に可能性を感じ飛び込み。
漢方相談薬局の老舗「東西薬局」に就職、中医師・菅沼栄、林建豫先生などに師事し中医学を学ぶ。
その後、帯津三敬塾クリニックで漢方・森田療法・ホメオパシー・気功を用いた癌や精神疾患の患者のケアに関わりより広い統合医療を知る。統合医療学会の企画運営や薬剤管理責任者として従事する。
現在、漢方養生堂、富士堂に所属。
カウンセリングで多くの患者と向き合う中、漢方を飲む以前の食習慣を含めた生活習慣の問題をどう立て直し、定着させるかがずっと課題で、本人に納得してもらい、自立して健康管理をしていくために「カラダが変わる12か月のズボラ薬膳」を主催する。